朝の京王線。
新宿に向かって疾走する急行は、まぁ当然ではあるんだけれど、めっちゃ混む。
しかし、その日は意外なほど空いてました。
僕はドアを入ってすぐ左の吊り革につかまり、ケータイに入った朝のニュースなんかを読んでました。
この時、僕の耳に流れていた曲はレインボーの『マジック』。
僕の青春と言ってまったく過言ではないハードロックバンドで……なんてバンドの紹介はここでは関係ないので省きましょう。
この曲、僕にとっては懐かしいだけの曲ではありません。学生の8ミリ自主映画とはいえ、僕が初めて映画作品のために書き起こした最初のシナリオ。この映画は先に短編として友人が撮り、そのパート2として僕が自主的に書かせてもらったものでした。悔しい事に映像としては記録するまでに至らなかったのですが、各シーンにかかる音楽をまとめたテープはまだ持ってたりします。そのラストに、つまり作品のエンドクレジットの部分に用意していたのがこの曲だったんです。
レインボーのアルバム(デジタルリマスター/紙ジャケ)がまとめてBOX仕様になったので、清水の舞台から飛び降りた気分(だって21,000円もするんだよ!!後悔はしてないけど)で購入したのですが、ここ十年ほどはベスト盤ばかり聴いていたもんだからこの曲の存在を忘れていたんです。
それが電車の中で聴いていて、フと流れ出したわけで……
もう懐かしさがこみ上げてこみ上げて……
音楽と生活は密接な関係にありますよね。あの頃の音楽を今、何かの拍子に耳にするととてつもなくいろんな事が思い出されますよね。先日のZARDの坂井さんの歌声にしたって多くの方がそうだと思うんですよ。僕なんかパチンコ屋からヤマトが聴こえてきただけでウルっと来ますもん。真っ赤なスカーフじゃないですよ。主題歌の方ですよ(笑)。
で、そんな、昔のあんなことこんなことを思い出しながら電車に揺られていたわけです。
いまどきの電車の中、インナータイプのヘッドホンしている人なんて山のように居ます。そのうち、数パーセントの割合で、インナータイプではない、頭から被るタイプの、ゴシックフォントで書きたくなる【へっどほん】を使ってる方々もいらっしゃいますよね。
僕のまん前でひとりの女の子がその【へっどほん】で音楽を聴いておりました。歳の頃は二十歳前後。スーツではなく、普通の私服。学生かもしれないけど社会人かもしれない。その子が座席脇のバーにしがみつくようにして聴いてるんです。
電車はね、冒頭に書きましたけれど、意外なほど空いていたんです。だからしがみつく必要なんて無かったはずなんです。でも両手でしっかりバーを握ってる。
いろんな方がいらっしゃいますからね、電車なんて。足元の子供なんてお構いなしに乗り込んで蹴っ飛ばして泣かしても無視する背高バカサラリーマンとか普通にいるしね。あ、僕、電車の中の化粧とか飲食とかはさほど気にしないたちです。混んでれば別だけど、座ってるなら別にいいんじゃないの?というスタンス。
んな事はいいんだけど(笑)、この女の子、超薄型のプレーヤーをバッグから取り出しまして。次に聴く曲を選び出したんです。まあとにかくいろんなアーティストの名前がスクロールでダララーッと出てくるわけです。彼女の肩越しにその画面がよく見えたんです。そこで一瞬、おやっ?!と目を引いた行が。
【モーニング娘。】があった……(笑)。
先に書きますが、これ、ファンだから発見したって、そんな話じゃないですから(笑)。
で、この子、通り越してから戻って【娘。】を選んだんですよ。トレカなり生写真なり持っていたら差し上げたい気分になりましたよ(笑)。で、彼女が聞き出したのは『Ambitious!野心的でいいじゃん』。近年の娘楽曲としては先頭ブッチギリのスピーディな曲で、イングヴェイ・マルムスティーンをまるごと移植したかのような速弾きギターが間奏で聴ける、イケイケな(ウエウエじゃない)キラーチューン。
僕もこの曲は大好きで、今カラオケで【娘。】歌っていいと言われたらこれ歌いますね(笑)。
いや、そうじゃなくて。
この曲の出だしの歌詞ですが、「JUNP JUNP take offしようぜ!」から始まる、威勢のいい歌……ではあるんですが、メロディは恐ろしいほどに哀愁のこもった曲なんですね。この曲をスローバージョンにしてピアノで演奏させたら、泣けますよ、ハイ。
そんなこの曲を、彼女は二回繰り返して聴いたんです。その間、操作するとき以外はずっとバーを両手でつかんでいます。
三回目に曲を変えたんです。『悲しみトワイライト』。
すみません!娘楽曲に詳しくない方は置いてけぼりになっちゃいますが、僕はここでピン!!と来ました。同時にやばい!!とも。
この子、絶対泣いてます。心の中で。
顔はよく見えません。表面的には普通のそぶりしてます。でも両手のつかみ方に出てます。何があったかなんて解りませんけど、心が哀しいのは確実です。と同時にこの選曲です。今多数録音してある中からこの二曲を選んで聴いてます。今前向きになりたいんです。きっと電車を降りるまでに、会社なり学校なりに到着するまでに!とにかく前に進みたい。周囲にどれだけ頼れる仲間がいるかは知りませんが、居るなら支えてやって欲しい。とにかく彼女は今、自分で自分を励まして、鼓舞して、ひたすら前進しろと、寡黙な叫びをもって言い聞かせてるわけです。でも両手が震えてる。強く握っている両手が……
自分の降りる駅に着いたので僕は降りました。降りるとき、彼女はまだ三曲目を聴いてました。すれ違う時に想像が間違っている事を願って彼女の顔をそれとなく振り返ってみました。
涙ためてました。
気の利いたことも、応援する一言も、何も言ってあげられなかった自分が悔しかった。いや、出来たところで余計なお世話でしょう。なんにせよ、もう過ぎた事です。電車は彼女を乗せて行ってしまいました。
ここでこう書いても仕方ないんですけど。でも書かずにはいられないので……書かせてね。
頑張れ!!
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