『墓場鬼太郎』の放送が始まった。深夜枠だ。
キャッチフレーズは「大人の鬼太郎」。いろんな意味で大人な作品ということらしい。
題材は『ゲゲゲの鬼太郎』の前身である。
今や大衆キャラと化した鬼太郎だが、実はこういう背景を背負って生まれてきた、とっても重いキャラクターなんだよと、若い人たちに教えるのはいいことだと思う。だいたい考えてみたら変じゃないか。今までの鬼太郎は放送されるたびに人間の味方みたいになってきている。まるで昭和の時代にそのキャラクターを変化させていったゴジラの様だ。ゴジラはもともと原水爆の放射能によって生まれた大怪獣で、人間の味方とかになるタマじゃなかった。なのに作品を重ねるごとにそうならざるを得なくなってくる。つまり人気取りをしなければもたなくなってくる。なら無理に作らなければいいのだ……が、企画段階で聡明な決断をする人格者なんて、映画屋にもテレビマンにもいないのだ。まずはゴジラありき。まずは鬼太郎ありき、なのだ。
で、今度の鬼太郎は原点に戻り、壮絶かつおどろおどろしい世界観を忠実に再現してくれるという。
貸し本の時代をギリギリのところで知っている世代としては、これはとても嬉しいことだ。オリジナルのもつエネルギーと特異な世界観は、現代のゴジラに対しての初代『ゴジラ』のそれと同じで、まさに『恐怖』であり、『驚き』であり、『トラウマ』なのである。
そして始まった放送を、僕はジックリと見せてもらった。
が、
が……
ガックリしちゃったよ、マジで(泣)。
深夜枠。「大人の」。味方になったであろうそれらの条件を、演出家は『駆使』したのか?
はっきり言う。できていない。
色味や作画も原作の雰囲気を出そうと頑張っている。それは痛いほど解った。主題歌や副主題歌が雰囲気をぶち壊していてもそこは文句は言わない。後々にそれらの歌が馴染んでくることもあるから。
では何が気に入らないか。
この一点である。音だ。音響である。アニメは元から音の存在しない媒体だから、頭からお尻まで、すべてに音を付けなければならない……と、多くのアニメ作家たちは『勘違い』している。特にベルトコンベア式に製作されるテレビアニメの場合、たいした考えもなく、音響スタッフに任せて音で全編を埋め尽くしてしまう作品が多い。音なんかしないだろう場面にもイメージ音というものが重なる。このイメージ音というものが、今回の鬼太郎みたいな作品の場合、命取りになる。
火の玉がフワ~っと漂っていくシーンがあったが、まさにここに『フワアアァァァアアアァァァァアアアアァァァァアア』というイメージ音が付く。他にも様々な『アニメ的イメージ音』が枚挙に暇も無いほどに鳴り捲る。しかし、これらの音は必要だろうか。
そもそもよく考えてみてほしい。昭和初期。鬼太郎というキャラクターの生まれた時代。国産のテレビアニメもまだなく(アトムの放送が昭和38年だ)、墓場や幽霊、妖怪、お化けなんてものも今みたいにテレビやDVDで山ほど見ることは無かった時代だ。夜の闇に何が潜むか解らなかった時代の恐怖は、今みたいに「観て」「聴いて」「びっくり」するような種類のもんじゃなかった。ショックではないのだ。ひたひたと得体の知れない何かがそこにいるようないないような……そんな不確かなものの怖さがメインだったのだ。角を曲がったとたんに感じる空気の澱みみたいな、意味不明な恐怖感があの時代にはあったのだ。逆に言えば、あの時代には『余計に恐怖を煽るものは無かった』のである。現代の作品のように、音響と映像で煽ってしまってはいけないのだ。心理戦が必要なのだ。あの時代の空気感がうまく再現されていたら、雰囲気だけで相当コワイものになったはずなのだ。
結局、アニメ的な音を付けることによって、大人の鬼太郎にするつもりだった作品が、単なる『鬼太郎の新作アニメ』になってしまった。その事を演出家は理解していない。
どうしてそんな場当たり的な感覚でこの原作に手を付けられたのか。とても不思議だし、残念だし、悔しい。大真面目に意見するが、音とか音楽なんてものは映像を補佐するものなのだ。それに頼っちゃいけない。作画は頑張っているのだ。カメラワークもいい。演出家の目線は間違っていないのだ。だが音に関する限り、演出家は研究がまったく足りない。極端な話、墓場のシーンも古寺のシーンも、イメージ音なんか無くていいのである。すすきのかすれあう弱い風の音や、地虫の地味な合唱を延々聞かせてピタッと止めるとかでも充分怖さは引き出せるのだ。
そもそもどうしてヒーロー然としたキャラに成長した『誰もが知っている鬼太郎』のオリジナルの声優を使ったのか。こうまで徹底して原点を表現したかったのなら、そこからして間違いであろう。野沢雅子氏がいかにシニカルな鬼太郎を低音で演じきったとしても、視聴者の心の底には『正義の鬼太郎』がいてしまうのではないか?
と、苦言ばかりを書いたけれど、こんなことは珍しい。新番組をここまでけなしたことは最近無かった。それだけ期待が大きかったのだ。自分に対して、慰めの言葉をかけるとしたらこれしかない。
「まだキューティーハニーは終わらないから!!」(笑)
ワシ、どっちも好きよ。
少なくとも、正義の味方なゴジラよりは好きだなぁ~(笑)
投稿情報: いぶくろう | 2008年1 月16日 (水) 午前 01時48分
厳しいご意見ですねぇ。
僕は初期の鬼太郎の声優さんだったんで、満足でしたが。
言われてみれば確かに音は多すぎのような気がしますね。
でも、もうそんなアニメに慣れすぎて、感覚が麻痺してる自分が怖いっす。
日曜の朝にやってる鬼太郎はすでに声が "コナン" なので頂けません(^^;
投稿情報: ring | 2008年1 月16日 (水) 午後 12時03分
いやぁ、実は岬、アニメ科卒業なもんですから、アニメに関しては昔からうるさいんですよ(笑)。
『墓場鬼太郎』には物凄く期待してたんですよ。ようやくアニメを映像手法として扱って大人向けの作品が作られるのではないかって。
だからヘナヘナになっちゃったんです(笑)。
普通のテレビアニメとして観るなら、それなりに冒険もしていて点数は高いかもしれないんですけどねぇ……
ちなみに『ヤッターマン』も……悲しかったっすねぇ(笑)。
投稿情報: 岬 | 2008年1 月16日 (水) 午後 11時36分