待望の映画『夕凪の街 桜の国』のオフィシャルサイト、オフィシャルブログの存在を知った。
当ブログのオススメ本コーナー(『ぼくたちの教科書』という枠のところ。このタイトルは今放映中でお気に入り作品のひとつ『わたしたちの教科書』をもじったもの)でこの原作本を挙げているけれど、今回はこのオフィシャルサイト発見があまりにも嬉しかったので、『夕凪の街 桜の国スペシャル』としてみました。まずはリンクのコーナー(『リンク(COPY)』とあるけれど、これは大好きなホラー映画『リング』に出てくる呪いのビデオのCOPYテープをひっかけたもの)にオフィシャル要素の3アドレスを追加した。
で、それだけじゃあまりにも何なので(笑)、考えた末に私設ガイドブックみたいな事を思いつきました。
この原作は、何度も読んで初めて気付くという深い部分の多い作品です。一度読んで「うん、いい作品でした」ではあまりにもったいない。では何度くらい読めば全体を読み解けるか……それはもう個人差がありすぎて(笑)。
でも、とりあえず、まだ読んでいないという方がここを見つけられましたら、ここを敢えて読まずに、まず白紙の状態で原作を読んでみて下さい。ご自身の感性で受け取れるだけ受け取って下さい。それがその方の自然でリアルな受け取り方です。その感性は大切にしたいですよね。
で、ここに僕が記したものは、原作本を読了し、ご自身の受け取られた作者のメッセージや登場人物たちの生き様なんかを、自分なりに落ち着かせてみてから、更にもう一度、つまり二周目(もしくはそれ以降)にとりかかろうという方のためのモノです。もちろんネタバレもあります。だからね!絶対原作未読の方はここに目は通さないで下さいね!
ではガイドに移ります。この原作にはどんなドラマが詰まってたんでしょうね。『見えるもの』を中心に見渡してみましょう!
(それ以外にもこんなのがあったじゃん!という部分がありましたら、ぜひお教えください!よろしくお願いします)
●表紙:このイメージが映画のポスターに昇華されたのは言うまでもありません。それにしてもあのポスター、実に見事な仕上がりです。観ただけでいろいろが思い返されて泣けてきます。
●2~3ページ見開きカラー挿絵:平和大橋の手すり(手すりだよね?)上のウクレレを持った皆実。着ている服に注目。これは皆実の夢(寝て見る方じゃありません)なんでしょうね。
●4ページカラー挿絵:フタバ洋装店前の古田さんと皆実。古田さんがまだ長袖。つまり春ごろからこのワンピースに目をつけていたわけですね。
●7ページ1コマめ:ワンピース……の短い袖……の更に後ろに古田さんのきれいな二の腕。「うちはええよ…」のセリフはこのコマあってこそのもの。
●9ページ2コマめ:すれ違う女の子が呼ぶ友達の名前は……思わず振り向いてしまう皆実。
●12ページ5コマめ:まくっていた袖をそそくさと伸ばす皆実。
●15ページ7コマめ:長袖にこだわる理由……原因も明らか。
●16ページ3コマめ:この作品が単なる被爆モノでない事がここでよく解ります。
●29ページ7コマめ:電線にとまっている二羽の鳥。実は表紙にも二羽の鳥が。人並みに幸せになりたい。でも罪の意識に苛まれる……そんな心の葛藤を忘れた、ささやかな時。皆実の心象でしょうか。
●31ページ1コマめ:「じゃあやっぱりハゲるんかね?」
●32ページ2コマめ:メガネの女性。
●36ページ挿絵:皆実と太田京花。この挿絵の受け取り方はいろいろ。
●41ページ5コマめ:仏壇。手を合わせている相手は京花(七波の母)。でも、ここにいるのは京花だけではないでしょう。七波はそんな事まで考えてませんでしょうけれど。
●45ページ7コマめ:東子のセリフと表情に注目。
●48ページ3コマめ:東子が楽譜を千切って作った桜の花びら。『桜の国』編の象徴的シーンで、次のお話にも似たシチュエーションが出てくる。
●48ページ6コマめ:ここでのフジミの髪留めは黒。
●51ページ4コマめ:東子のセリフに未来の姿。
●63ページ3コマめ:『夕凪の街』編で皆実とすれ違った女の子に呼ばせたのが「みどり」。ここでのフジミの口から漏れ出た名前も「翠(みどり)」。フジミのセリフとしてなら「皆実」と呼ばせてもおかしくはないけれど……でも、原爆でいきなり消息不明になった身内ですしね。最後の最後まで納得は出来ていないのでしょう。そういう『納得できない想い』の表現として、ここは霞でも皆実でもない「みどり」なんでしょう。
●64ページ5コマめ:現在を生きている古田さん。柄も作りも違うけれど、ワンピースを着ている。
●65ページ4コマめ:32ページ2コマめに出ていたメガネの女性。
●67~68ページ:現在の打越。皆実が言った通りにハゲている。
●72~77ページ:皆実の死後、広島時代のフジミの髪留めは白。
●84ページ5・7コマ:その髪留めは皆実の形見である事が解る。泣けて仕方ない。
●89ページ5コマめ:七波の野球経験の伏線が見事に活かされたカット(笑)。
●91ページ:凪生が東子に宛てた手紙を千切って作った桜の花びら。『桜の国』編を締めくくるシークェンスの導入部として見事に機能。
いやしかし、何度読んでも新しい発見があります。そして、些細なコマ、些細なセリフに心を揺さぶられます。
ちなみに今回、このガイドのために読み直して気付いた、ちょっと感動したさりげないカット。それは91ページのラストカットの京花の横顔でした。大人になって、それでも京花らしさの残る、美しい横顔。そして何度も読んで涙する、七波のセリフ。「そして確かに このふたりを選んで 生まれてこようと 決めたのだ」。
こうの史代さん!本当に素晴らしい作品です。
髪留めなどの小道具が原作以上に利いてくるつくりになったという映画。今からその出来が楽しみです。
夏場の公開ですからね。汗と涙のためにタオルを持って行きましょうね!
女性の皆さんはぜひ、金魚の刺繍のハンカチで!
はじめまして。こうの史代ファンの「てる」と申します。
「こうの史代ファンページ」の掲示板によく書き込んでます。
素晴らしいですね。
4ページのカラー挿絵の、「春頃」というのは気がつかなかったです。
【他に気がついた事】
「フタバ洋装店」は「双葉社」からですね。
扉絵の皆実の腕には、やけどの跡が。
40-41Pの、いつも同じ内容だから、目をつぶって書いて、だいたい枠に入って喜ぶ。
50Pのマンションが傾いてるのは、高度感を出すテクニック(写真でよく使う)。17Pも。
58P、「いつにもまして暗いなあ」は68-69の伏線ですよね。
66Pのお墓の名前に気がつくだろうか。
79Pのラブホテルの名前に注目。
79P、ラブホテルの部屋番号が、自宅と同じ203であったため、過去の記憶を呼び覚ました。
などもありますね。
でも、自分で気がついてこそ面白いのですよね。
投稿情報: てる | 2007年6 月10日 (日) 午後 12時39分
てるさん、貴重な情報まことにありがとうございます!
>>79Pのラブホテルの名前に注目。
>>79P、ラブホテルの部屋番号が、自宅と同じ203であったため、過去の記憶を呼び覚ました。
これは気付きませんでした。単に鍵から連想したわけじゃなかったんですね!
ところで、『ホテル河野』に関してはまったく知識が無いのですが、こうの史代さんの他の作品に出てくるのでしょうか。
あとひとつ、今まで読んでいてさらりと流してしまっていた、七波のとんでもない所業に気付きました。
●78ページ2コマめ:先祖の墓から桃盗むなよ~!(笑)
投稿情報: 岬 | 2007年6 月10日 (日) 午後 02時40分
「ホテル河野」は、「さんさん録」の2巻第27話に出てきますよ。見開き大ゴマで。
説明するのは野暮ですが、こうのさんの本名からとったと思われます。
僕は、「さんさん録」こそ、映像化作品で見たいです。
地味ですが、良い映画になるような気がします。
あと、原爆ドームの元の建物は、漫画アクション連載中の「この世界の片隅に」や短編「冬の
記憶」にも出てきます。(「冬の記憶」は登場人物が同じ。)「夕凪―」ファンはニヤリです。
「この世界の片隅に」は、呉空襲を扱った作品で、こうのさんが言うには「(事実と)月を合わせ
ていく」とのことなので、1年後の7月にすごい展開を迎えると思われます。今は、まるでコメディ
作品のようですが、大注目しています。
今はまだ、(地味な)ヒロイン、「すず」が、広島の呉に嫁いで、人間関係を築いている最中なの
で、今から読んでも、物語にはついていけます。これも、「2度以上読んで気がつくことが多い」
作品なので、僕も、単行本になって気がつく伏線も多いと思います。
投稿情報: てる | 2007年6 月10日 (日) 午後 06時27分
ところで、「夕凪の街 桜の国」のポスター、こうの史代さんの名前が、監督と同じ大きさで
書かれていることに気がついたでしょうか。キャストよりも大きいのです。
これは異例です。原作に敬意を払ったとしか思えません。しかも、TV朝日「時効警察」で
時の人である麻生久美子を売りにしないで、それとわからないような絵でポスターにする
とは。キャストに頼っていないのですね。
何か、応援したくなりますね。
僕は、試写会で映画を観させてもらったのですが、原作を読んでいても全く問題ありません。
原作の存在を観ている間は忘れるほどです。読んでいて丁度いいぐらいかも知れません。
投稿情報: てる | 2007年6 月10日 (日) 午後 06時41分
『さんさん録』でしたか。まだ未読なんですよ。それにしても……そうですね。『こうの』とひらがなだったらすぐ解ったんですが、漢字にしてしまうと当たり前の名前すぎて、かえって気付きませんでした。ありがとうございます。
『この世界の片隅に』は今から追いかけようと思っているんです。単行本になるまでは待てません(笑)。
ポスターの原作者名が監督と横並びの扱いというのは僕も気付いてました。でもこれ、当然の扱いですよね。単なる原作じゃありませんから。作っている人たち全員の思いじゃないでしょうか。
『この原作に出会えて、それを映像化させてもらえて、本当にありがとう』という。
むしろ原作者名を先に出してもいいくらいじゃないかと(笑)。
>>短編「冬の記憶」にも出てきます。(「冬の記憶」は登場人物が同じ。)
この作品は単行本化されているのでしょうか?ぜひ読んでみたいのですが。
投稿情報: 岬 | 2007年6 月10日 (日) 午後 11時40分
はじめまして、てるさんと同じ掲示板にいるものです。
>単行本化は?
まだですよ~。双葉社のアクションの一番後ろで連載中なんだそうです。
気が向いたら、立ち読みどうぞ。でも今月号ではお休みみたいです。
あー、そういえばてるさんが書いとられた「お墓の名前」、説明がないとわからないんですよ。
(66ページ2コマ目)
こうのさんは小鳥を三羽飼っておられたんですが、(後ろの作者略歴に一羽出てきますね)その名前が「すずしろ」「ぷらづま」「たまのを」というんです。
以上、物語の本筋に全然関係ないことでした。
投稿情報: サキノハカ | 2007年6 月11日 (月) 午前 06時09分
サキノハカさん、こんにちは!お仲間が増えて嬉しい限りです。
>>あー、そういえばてるさんが書いとられた「お墓の名前」、説明がないとわからないんですよ。
>>(66ページ2コマ目)
>>こうのさんは小鳥を三羽飼っておられたんですが、(後ろの作者略歴に一羽出てきますね)その名前が「すずしろ」「ぷらづま」「たまのを」というんです。
あー!墓の名前というのは2コマめの事だったんですね!なるほど、ドラマとは直接関係はないけれど、ファンとしてはこういうのってツッコミどころですよね(笑)。
しかし、こうの史代さんの絵って、なんでこんなに暖かいんでしょうかね?
一切スクリーントーン使ってませんしね!
カラーの構成もものすごくいい!
尊敬しちゃうなぁ……
投稿情報: 岬 | 2007年6 月11日 (月) 午後 09時40分
今日、気がつきました。
7p、17Pの、大空健研の看板の下が「の乃野屋」です。
こうのさんの同人誌と同じ名前です。
投稿情報: てる | 2007年6 月12日 (火) 午前 12時00分
あ、同人誌なんてこともやってらしたんですか、こうのさんは!
なんか親近感わくな~(笑)。
岬も、今日になってフと気付いた事がありました。
『桜の国(二)』編ですが、これ、東子が扉絵になってますよね。
よーく見渡してみたら、東子は京花なんですね。いや、ちょっと乱暴な表現ですけれど、単に「うちの母さんに ちょっと似てるよね あの子」というセリフだけでなく、あっちこっちでシンクロしてますよね、この二人。
『桜の国』の両方とも、東子がお金を貸してから七波の旅が始まりますよね。これ、うまくまとめられませんけれど、京花の誘導かもしれないのかなとか。
そこまでは深読みしすぎかもしれませんが、なにかひとつ、大切な部分に感じた次第です。
投稿情報: 岬 | 2007年6 月12日 (火) 午前 12時23分
細かい描写もそうなんですが、「夕凪の街 桜の国」は、漫画表現のテキストとしても
興味深いのです。例えば、32P、33Pのモノローグは、なぜ、白いコマだったのでしょう。
なぜ、黒に白抜き文字でなかったのか。これは、ご本人のお話で、意識が遠ざかっていく
表現は、白いコマの方が合っているからとのことでした。(確かそんな説明だったと)
又、48Pから50Pでは、おばあちゃんの顔をわざと書かないようにしています。下書きの
段階では顔を書いていたそうですが、その方がいいと判断したとの事。
投稿情報: てる | 2007年6 月12日 (火) 午前 12時34分
この白地に黒文字というのは、確かに珍しいかもしれないですが、僕は趣味でシナリオとか書いたりするので、演出的には普通にアリと思ってました。
むしろ、そういう『こだわり』の活かされた作品が好きで、自分も『こだわり』は大切にしようと思っています。
意識の遠のく様子といっても感じ方は人それぞれなので、そう受け止めた方がどれくらいいたかは解りませんよね。映像でこれを表現するなら、きっと黒い文字はぼやけたり揺れたりさせるところでしょう……
こうのさんの漫画はひとコマひとコマが『こだわって』構成されていますよね。並みのこだわり方じゃありませんよ。だから心底尊敬しちゃいます。
投稿情報: 岬 | 2007年6 月12日 (火) 午後 08時11分
昨日アロハな海賊とランチして、本お借りしました・・・。
本当に本当にありがとうございました。いい友達がいて感謝です。
昨夜から五回読みました。返すまでにあと何回読むでしょうか。
今夜の試写会、うらやましい限りです。
久々に夫が映画でも行こうかと、産まれてきたら当分行けなくなるであろう場所だから。
久しぶりに見るのはこれに決まりです。
ちなみに、嬉しくてビックリ!したのが私達あまり映画館に行かないのだけど唯一二人で行ったのが、「半落ち」でした。同じ監督なんて、また、運命感じます。
ああ、早く上映日にならないかなぁー。
それまでに、金魚のハンカチ探さなくちゃ・・・
原爆について無知すぎるんだけど、おととし親友と三人で広島原爆ドームや宮島へ行きました。楽しかった旅の思い出しかない私はちょっと恥ずかしいです。
ところで岬さんビヤガーデン?
ペンギン的には牛乳バーとか行きたい。ないか・・・。
またカラオケも行きたいね!
アロハな海賊さま、またランチしよーねー。で、今度はBMW乗せてねー。
投稿情報: 皇帝ペンギン | 2007年7 月13日 (金) 午後 03時26分
牛乳バー?!
アイスクリームにそんなのがありそうだよね(笑)。
ビアガーデンに行こうと言い出すのはだいたい夏前で、梅雨に入ってしまうと、もう蒸すのと暑いのとで冷房の効いた店内でグビーッと行きたい……と思ってしまうもんです(笑)。人間って気分の生き物なんですね。
>>楽しかった旅の思い出しかない私はちょっと恥ずかしいです。
それはそれで楽しんできたって事が大切な事です。原爆がどうのと勉強する意識は確かに必要かもしれないし大切な事かもしれませんけれど、たまたま友達に貸してもらった漫画で知った感動も、それはそれで尊いものですよ。恥ずかしいことなんてありませんって。
今日の試写会で監督の挨拶があったんですが、『宣伝費もかけられず、大作ばかりが軒を連ねる夏の時期に公開するのは大変な冒険です。作品を観て良かったと思われたら、ぜひお友達やご家族など、周りの人々に薦めてください』といわれてました。僕は原作をGINDAMA先生と海賊さんに薦めました。海賊さんはペンギンさんに本を渡しました。ペンギンさんはご主人と映画に行かれます。こんな繋がりが持てたという事も、僕は嬉しいです。この作品に出会えて、僕はとっても嬉しいです。
投稿情報: 岬 | 2007年7 月14日 (土) 午前 01時25分